小説に外観というものがあるとするならば、それはおおよそ文章によって支えられているものであるはずだが、どうも人間は文章よりも、小説の中で起こった鮮やかな出来事によって支えられているという風に錯覚してしまうらしい。しかし、この小説は珍しく、その逆の様相を呈していた。戦争捕虜としての経験を、自身が持ち合わせている記憶や言葉以外のもので語ろうとしていないような、そういった気取りのなさが、小説の良し悪しなどには関係なく、作家としてある種正当な態度であると感じた。
そしてこの小説に、深いメッセージや伝えたいことなどは、本来の意味でないように思える。身辺雑記の域を出ない、というのはかなり意地悪な言い方であるにしても、小説というメディアで綴られていることに感心する、ということからかなり遠いのは間違いない。しかし、我々日本人が戦争で経験したものごとなど、せいぜいこの程度のものでしかないのだ、というメッセージめいたものがあるという考え方も、実はそこまで不自然ではないのではないか。
第六十三回受賞作(1970年)
わたしの評価 ★
わたしの印象に残った選評 暗く重い体験を、明るく軽く書いた気持は、よく察しられるのだけれども、よく察しられるなどということは、作品の真の成功ではないように思う(川端康成)
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